水素からウランまでの全元素、約4000種類の不安定な原子核を世界最大強度のビームとして発生させることができる加速器施設“RIビームファクトリー(RIBF)”。このRIBFを駆使し、不安定核の大きさや形を探る研究者がいる。理研仁科加速器研究センター櫻井RI物理研究室の武智麻耶 客員研究員だ。陽子と中性子がほぼ同じ数の安定核は球形・レモン型・みかん型といった形を持ち、中性子数が過剰な不安定核では中性子ハローの発生、異常変形核群の出現などさまざまな現象が発生しうる。こうした現象に興味を持った武智客員研究員は、加速器を用いて原子核同士が反応する確率からその大きさや形を詳細に導き出す計算式を確立。そして2009年、RIBFでネオンの不安定核の大きさを導き出すことに成功した。
武智麻耶 客員研究員
仁科加速器研究センター 櫻井RI物理研究室
愛媛県生まれ。博士(理学)。愛媛県立松山東高等学校卒業。大阪大学理学部物理学科卒業。同大学大学院理学研究科物理学専攻博士課程修了。同大学核物理研究センター教務補佐員を経て2007年に理研入所。基礎科学特別研究員、協力研究員などを経て、2011年4月より客員研究員。
図:RIBF で測定されたネオンの原子核半径
質量数20の安定核から32の不安定核までの核半径を調べた(左)。安定核の半径は、黒い線で示すように質量数のほぼ1/3乗に比例する。青い線は、中性子が1個ずつ増えたときの半径を表す理論値。ネオン31の半径が理論値から大きくはずれて、ネオン32よりも大きな半径を持っている。ネオン31が中性子だけが原子核の外側に広がった“中性子ハロー”であることが示唆される(右)。
「子どもの頃から読書と絵を描くのが好きでした。高校のときは美術部に入り、空想的な背景に、図鑑を見ながら精緻な鳥の絵を描いたりしていましたね。対象をしっかり観察し具象化する行為は、今の研究にも通じています。通常では見えない原子核をいかに可視化するか、そこにこだわりがあります」
天体や宇宙に関心があったという武智客員研究員は、大阪大学理学部物理学科に進学。そこで原子核物理と出会った。「不安定核は、地球上では安定に存在することができません。けれども宇宙に存在しうる原子核は、不安定核のほうが圧倒的に多い。“不安定”というのは地球上での視点に過ぎず、宇宙では中性子星のように、陽子と中性子が極度に非対称でも安定性を保っているケースがある。 そういった常識を覆す現象が新鮮でした」
その後、大学院で不安定核の大きさ(半径)を追求し始めた。「加速器を使って調べたい原子核を、ほかの原子核にぶつけると衝突して壊れるものもあれば、衝突せず通り抜けてしまうものもあります。原子核が大きければぶつかって壊れる確率は高い。その確率を測定し、大きさを推定する研究が1980年代から始まりました。当初は、原子番号1の水素から4のベリリウムといった軽い原子核が対象でしたが、5~6年前には原子番号6の炭素の中性子過剰核が全て調べられました。ただ、分かったのはだいたいの大きさ。私は、もっと精度よく原子核の形を決める方法を確立したいと思ったのです」。武智客員研究員は放射線医学総合研究所の加速器を使い、自ら立てた計算式を実証する実験を繰り返し行った。「すでに大きさや形の分かっている炭素の安定核を使って実験し、測定値を計算式に当てはめる。計算式があっていれば、炭素の大きさと同じになるはずです。でも、何度やっても同じにならない…。博士号取得をあきらめたときもありましたね(笑)」
その後、計算式を完成させた武智客員研究員は2007年、理研でRIBFを使ってネオン(原子番号10)の中性子過剰核の大きさを調べる研究を開始。「質量数20のネオンの安定核から中性子数を一つずつ増やしていって、最終的には中性子数が12個も多い質量数32の不安定核まで実験しました。その結果、31のネオンの大きさが32よりも大きいことが分かりました。これは、中性子が原子核の外側に広がる“中性子ハロー”の発生を示すデータで、これが得られたときはうれしかったですね。今後、さらにこの原子核の形を明らかにする実験をRIBF を使ってできたらと思います」
2011年4月、武智客員研究員はドイツの重イオン研究所(GSI)に主たる研究の場を移し、陽子過剰核や励起状態での不安定核の研究を目指している。最後に原子核物理研究の魅力について尋ねた。「この研究は、宇宙の成り立ちを解明するための一つ。私たちの発見によって、これまでの常識が覆される可能性があります。ワクワクしませんか?」
『理研ニュース』2011年5月号より転載