10億分の1mというナノの世界に達する超微細構造をガラスにプリントできる、画期的な“はんこ”をつくった研究者がいる。理研フロンティア研究システム 研究技術開発・支援チームの沖仲元毅 開発研究員だ。電子・光学素子の高密度・高機能化は年々進んでおり、高速かつ安価で、より細かな構造をつくろうと、世界中の研究者が競っている。現在、微細構造をつくる技術はフォトリソグラフィーが主流だが、光を利用するため波長の制約を受けてしまう。そこで注目されているのが“ナノインプリント”。沖仲研究員は、ポリシランという材料を使って、50nm~25μm という超微細構造をガラスに一括転写することに成功。幼いころからスポーツに夢中だったという沖仲研究員、その素顔に迫る。
沖仲元毅 開発研究員
フロンティア研究システム 研究技術開発・支援チーム
1974年6月5日生まれ。32歳。国立奈良女子大学文学部附属高校から1994年、大阪府立大学工学部へ進学。2003年、奈良先端科学技術大学院大学 物質創成科学研究科博士後期課程修了。同年、理化学研究所入所。
ナノインプリントによるガラスのnm~μm構造の成型工程
紫外線を照射することにより、ポリシランのSi-Si結合がSi-O-Si結合に変化し、最後に熱処理を加えることでガラスになる。
週に3~4回、朝6時半にテニスコートに立つ沖仲研究員。「小学生のころは野球、中高はサッカー、大学はテニス。運動ばかりしていました」。しかし、高校2年のときには、米国・ワシントン州で1年間の留学経験を持つ。「すべてが新鮮で、友達もたくさんできて楽しかったですね」。そして、高校3年の夏休み、「文部省(当時)のプログラムで、米国・イリノイ州のアルゴンヌ国立研究所に約2週間派遣してもらったんです。超伝導を学びながら基礎的な実験をして、“面白い”と感じましたね」
1994年、大阪府立大学へ進学。「エンジンへの応用を目指した高耐熱性セラミックス材料の研究をしていました。ただ、そのときも研究よりテニスばかりという生活でした(笑)」。その後、奈良先端科学技術大学院大学へ。「修士課程のときに指導教官の布下(ぬのした)正宏先生の勧めで、博士課程に進みました。その後、就職を考えたときも先生に理研の青柳克信(よしのぶ)先生(研究技術開発・支援チームリーダー)を紹介していただき、研究者になりました。研究者になったのは、人とのつながりが大きかったですね」
2003年、理研に入所し、ナノインプリントの研究を開始。「最初は非線形光学有機フォトニック結晶の開発をしていましたが、長期的な耐久性に問題があり、2005年からガラスを対象にした研究も並行して行うようになりました」。ガラスパターニングのきっかけは?「日本ペイント(株)からポリシランを紹介されたんです。“これはガラスのナノインプリントに使える”とひらめき、日本ペイントと共同研究がスタートしました」。普通、ガラスに直接微細構造を転写しようとすると500~600℃という高温が必要な上、時間もかかり、装置にも負担がかかる。「ポリシランを使うと80℃以下でパターニングできるんです。図が開発したナノインプリントの工程。図の(2)で金型を“はんこ”のようにポリシランに押し付け微細構造を転写し、(3)の紫外線照射で固め、最終的に(6)の熱処理で、ポリシランがガラスになります。紫外線照射の方法がポイントですね」。苦労した点は?「それぞれの工程で時間や温度など、いろいろな条件があるんです。最適条件を見つけるのに時間がかかりました。また、実はポリシラン単体だけでなく、ほかにもいくつかの材料をブレンドしてあり、材料の組成と配合率も工夫しています」
今後は?「いくつかの企業から注目されているので、この成果が身の回りの何かに使われるといいですね。特許も出したので、お金持ちになれたらいいなぁと(笑)」。最後に10年後は何をしているか尋ねたところ、「僕はスポーツとか趣味のピアノの時間も大事にする人間。研究だけでなく、ほかも充実させたいです」。研究はあくまでも人生の一部、研究も含めてトータルで充実させてこそ人生は楽しい、と言い切る沖仲研究員、今後が楽しみだ。
『理研ニュース』2007年5月号より転載